大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和38年(う)171号 判決 1964年6月02日

被告人 田代公憲

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四月に処する。

理由

職権を以つて調査するに、原判決はその適条の説示において、原判示第一の所為は道路交通法第六八条第二二条第二項第九条第二項第一一八条第一項第三号同法施行令第七条第二項、昭和三六年五月一二日宮崎県公安委員会告示第八号道路交通法第六五条第一二二条第一項同法施行令第二七条罰金等臨時措置法第二条に、同第二の所為は銃砲刀剣類等所持取締法第二二条第三二条第一号罰金等臨時措置法第二条にそれぞれ該当するから、所定刑中いづれも懲役刑を選択し、第一の所為について道路交通法第一二二条第二項第一項に従い加重した刑に従い、被告人には前示前科があるから刑法第五九条、第五六条第一項、第五七条に従い累犯加重し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文第一〇条に従い犯情の重い第二の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で、被告人を懲役四月に処する旨判示している。しかしながら道路交通法第一二二条第一項は、車両等の運転者が、同条項に掲げる規定違反の罪を犯した場合において、酒気を帯び、しかも犯情に照らして各本条に定める法定刑の範囲で処断することが軽きに失すると認められるときは、裁判所の裁量により、刑を加重して処断できる旨を定めたものと解される。したがつて同条の適用による加重は、酒気を帯びていた場合で、しかも諸般の事情に照し、各本条の法定刑の上限をもつて処断してもなお軽い場合に限られるのであつて、しかも各本条の法定刑の範囲で処断できないと認め同条を適用して加重する以上、加重の基準となつた法定刑の上限以下の刑を量定することは許されないと解するのが相当である。そうだとすれば、本件において、原判示第一の罪につき道路交通法第一二二条第一項を適用して法定の加重をすればその刑は六月以上一年以下の懲役又は五万円以上一〇万円以下の罰金となり、懲役刑を選択して累犯加重をすれば六月以上二年以下の懲役となり、更に原判示第二の罪と併合罪加重をすれば結局本件は六月以上三年以下の刑期範囲内で刑を量定しなければならないことになるのである。したがつて原判決が被告人を右の処断刑の最下限以下の懲役四月に処したのはまさしく法令の適用を誤つたものというべく、しかもその誤りが判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決は破棄を免れない。

よつて被告人並びに弁護人の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い当裁判所で直ちに判決する。

原判決の認定した事実に法律を適用すると、原判示第一の所為は道路交通法第一一八条第一項第三号第六八条第二二条第二項第九条第一、二項昭和三七年宮崎県公安委員会告示第一二号に、同第二の所為は、銃砲刀剣類等所持取締法第三二条第一号第二二条に各該当するところ、所定刑中いづれも懲役刑を選択し、被告人には原判示前科があるので、刑法第五六条第一項第五九条第五七条を適用して累犯加重し、更に以上の罪について同法第四五条前段第四七条本文第一〇条を適用して重い第二の罪の刑に併合罪加重をした刑期範囲内で処断すべきところ、本件は被告人のみが控訴をした事件であるから、被告人を原判決の刑のとおり懲役四月に処することとし、当審の訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用してこれを被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 古賀俊郎 塩原秀則 高井吉夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例